この記事のポイント
- 親の遺産分割。「とりあえず配偶者に」と先送りすることは、将来の相続トラブルの原因になり得ます
- 後から遺産分割の手続きをやり直すことにはかなりの困難を伴います
- 早期の適切な遺産分割協議が、家族の財産と関係を守る最善の方法です
ご両親の片方が亡くなった場合、配偶者に全部を相続させる、というケースは多くみられます。例えばお父さんが亡くなった場合に、残されたお母さんがすべてを相続する、という場合が当てはまります。
一見、問題がなさそうに見えますが、実はトラブルの原因になることもあります。
今回も架空の法律相談を通じて、相続に潜むトラブルについて解説します。
「母に全部相続させれば良い」その判断が招く落とし穴
見えない相続の危険を見つける相続リスク診断
相談者 50代 女性
弁護士: 本日はご相談にお越しいただきありがとうございます。相続に関するご相談ということですが、どのような状況でしょうか?
相談者: 実は先月、父が亡くなりまして。母と兄、そして私が相続人になるのですが、遺産分割の進め方について少し気になることがあって相談に来ました。
弁護士: お悔やみ申し上げます。
気になることというのは、どのような点でしょうか?
相談者: 兄が「父の財産は全部母が使えばいいから、特に手続きはしなくていいんじゃないか」と言っているんです。私も母のことを考えると、それでいいかなとは思うのですが、何か引っかかるものがあって。
現在の家族構成と財産状況
弁護士: まず、ご家族の状況を詳しく教えていただけますか?
お母様はどちらにお住まいですか?
相談者: 母は実家で兄家族と同居しています。母は今年で75歳になります。まだ元気ですが、最近少し物忘れが増えてきたような気もします。
弁護士: お兄様がお母様と同居されているんですね。
相談者: 私は結婚してから県外に住んでいます。実家には年に数回帰る程度です。兄はずっと両親の面倒を見てくれていました。
弁護士: お父様の遺産は、どのようなものがあるか把握されていますか?
相談者: 実家の土地建物、それから銀行の預貯金が2000万円ほどあります。株式なども少しあったようです。
不動産の価値は正確にはわかりませんが、3000万円くらいはあるのではないでしょうか。
遺産分割についての家族の考え
弁護士: 遺産分割について、お兄様は具体的にどのような考えをお持ちなのでしょうか?
相談者: 兄は「母が生きている間は母が全部使えばいい。わざわざ名義変更とかしなくても、父の口座からお金を下ろして使えばいい」と言っています。「母が亡くなったら、その時に兄妹で話し合えばいい」と。
弁護士: その方針についてどうお考えですか?
相談者: 正直なところ、母には不自由なく暮らしてほしいので、財産は母が自由に使えればいいと思っています。
でも、父の名義のままにしておくというのが本当に大丈夫なのか心配で。それに、兄が管理することになると思うのですが・・・
弁護士: お兄様とお母様の関係は良好ですか?また、お兄様とご自身の関係はいかがでしょうか?
相談者: 今のところは問題ありません。兄も母の面倒をよく見てくれています。ただ、私と兄の間では、あまり詳しい話をすることはないんです。「任せておけ」という感じで。
問題点の指摘
弁護士: いくつか重要な問題があることがわかりました。
お兄様がおっしゃっている「父の名義のままで母が使う」ことは、将来的に大きなリスクが潜んでいます。
相談者: どのような問題があるのでしょうか?
弁護士: 亡くなったお父様の名義のままにしておくことで起こりうるトラブルについて、詳しくお話ししますね。
この事例ではどこに問題があるでしょうか?
今回のように、お父さんお母さんのいずれかが亡くなってしまった場合、配偶者が全て相続するというケースでは、あとでトラブルが生じることもあります。
今回のご相談者の場合、どのような問題が起きるのか、それを防ぐにはどのような対応をすればよいのか。
次回詳しく見ていきます。