この記事のポイント
- 親の財産を管理していた場合、相続時に他の相続人から使途不明金を疑われてしまうケースは珍しくない
- 記録を残していないと、相続開始後に説明が困難になる可能性がある
- 感情的な対立が深まる前に、冷静に状況を整理し対応することが重要
善意の財産管理が疑われるとき
認知症のご両親の財産管理を任されていた方が、相続開始後に他のご兄弟から「使途不明金がある」と指摘されるケースは、毎年増えているように感じます。
今回は架空のご相談者との法律相談をベースに、使途不明金を疑われた場合の対応についてご紹介します。 ぜひご自身の状況と比べてみてください。
認知症の親の財産を使い込んだと疑われた
相談者 60代 女性
弁護士:今日はご相談にお越しいただき、ありがとうございます。
本日はどのようなご相談でしょうか?
相談者:父が3か月前に亡くなって、今、兄と遺産分割の話をしています。ところが兄から「使途不明金がある」と言われて困っています。
私は父のために一生懸命やってきたのに、こんなこと言われるなんて信じられません。
弁護士:それは大変ですね。状況を詳しく教えていただけますか?
相談者:はい。父は5年前に認知症と診断されました。母は10年前に亡くなっていて、兄は遠方に住んでいたので、近くに住む私が父の面倒を見てきたんです。通帳も預かって、必要なお金の出し入れは全部私がやっていました。
弁護士:なるほど。お父様の財産管理を任されていたのですね。
兄からの突然の指摘
相談者:そうなんです。ただ父は認知症と言っても最初のころは普通に話もできましたし、父にその都度報告をしていました。
父が亡くなって、遺産分割の話をするために父名義の通帳を兄に見せたら、突然「ここ数年で預金が大きく減っている。お前が使い込んだんじゃないか」と言われたんです。私は父のために使っただけなのに。
弁護士:お兄様は具体的にどのくらいの金額について疑問を持っているのですか?
相談者:通帳を見ると、この5年間で約1200万円が出金されています。
兄は「こんなに使うはずがない。説明しろ」と言うんです。
でも私、細かい記録なんて付けていなかったんです。父のために使ったことは間違いないのに。
弁護士:その使い道について、覚えている範囲で教えていただけますか?
相談者:父の施設の費用の支払や医療費、それに私が父の家に通う交通費、父が好きだった食べ物を買ってあげたり・・・あと、初めのころは父が「孫にお小遣いをあげたい」と言うので、私の子どもたちに渡したこともあります。
弁護士:それらの支出について、領収書などは保管されていますか?
相談者:一部は残っていますが、全部ではないです。
でも私は父の意向に沿ってお金を管理してきました。それなのに兄は「お前の子どもへのお小遣いは贈与だ。返せ」とまで言ってきます。もう我慢できません!
感情的な対立が深まる前に
弁護士:そうなってしまうのは当然ですね。ただ感情的になればなるほど、解決は遠のいてしまいます。今、大切なのは、ご自身が法律の観点から的にどのような状況に置かれているかを理解することです。
それを踏まえて、適切な対応を考えていきましょう。
相談者:・・・そうですよね。わかりました。
私の立場は法律的にどうなるのでしょうか?
弁護士:いくつか重要なポイントがありますので、次回詳しくお話しします。特に「立証責任」と「説明責任」という2つの考え方が重要になってきます。
この事例ではどこに問題があるでしょうか?
高齢の親の財産管理を任されている方は多いと思います。
この相談者の方も認知症のお父さんのために一生懸命にお金を管理してきました。 しかし、記録を残していなかったことで、相続開始後に大きな問題に直面しています。
今回のケースではどんな問題点があるか、それに対してどのような対応が必要かについて、次回詳しく見ていきます。