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遺産分割協議が先延ばしになってしまっている場合のリスクと解決法は?①

2025年08月29日

この記事のポイント

  • 遺産分割の放置は時間が経つほど解決が困難
  • 感情論ではなく法的手続きによる解決が必要
  • 早期に弁護士に相談をすることと迅速な行動が大事

相続が発生しているのに、遺産分割協議を先延ばしにしたり、放置をしたりしていると、思わぬトラブルに発展することがあります。

今回も架空のご相談者からの法律相談を基に、遺産分割協議を先延ばしにしてしまうリスクと対策をご紹介します。

きょうだいが遺産分割協議に応じない!?

相談者 60代 女性

弁護士: 本日はご相談いただき、ありがとうございます。
遺産分割のことでお困りとのことですが、詳しくお聞かせください。

相談者: はい。3年前に父が亡くなったのですが、遺産分割がまったく進まなくて困っています。相続人は私(長女)と兄(長男)、それから弟(次男)の3人です。

弁護士: これまでどのような話し合いをされてきたのでしょうか?

相談者: 父が亡くなった直後に、兄が「遺産分割は俺が取りまとめるから任せろ」と言ったんです。一応、税理士さんに相談をしたら相続税の申告は必要がないと言われました。
それで安心していたのですが、何度催促しても「忙しいから今度やる」「もう少し待ってくれ」と言うばかりで、一向に話が進みません。

弁護士: お父様の遺産はどのようなものがありますか?

相談者: 実家の土地と建物、それから預貯金があります。
実家には兄夫婦が住んでいます。父が入院した後に実家に引っ越してきて、そのまま住み続けているという状況です。

弁護士: なるほど。お兄さんはその不動産を実際に使用されているということですね。

相談者: 最近になって不安になってきて、きちんと遺産分割をしてほしいと兄に言ったんです。そうしたら急に態度が変わって、「お前が受け取れる分なんて大した金額じゃないんだから、我慢しろ」といきなり怒鳴られました。

弁護士: それは大変でしたね。他にも気になることはありますか?

相談者: 実は、兄が父の預貯金を勝手に使っていたのではないかと疑っています。父の入院中に、通帳を管理していたのは兄なので、詳細は分からないのです・・・ただ、父の性格から預金がこんなに少なくなるとは思えません。
それに、自宅の土地の一部を兄が勝手に駐車場として人に貸しているという話も聞きました。

弁護士: それは深刻ですね。弟さんとはお話しされていますか?

相談者: 弟も私と同じように困っています。ただ、「兄貴が怒ると怖いから関わりたくない」と言って、あまり積極的ではないんです。兄は昔から短気で、弟も私も言い返せない感じです。

弁護士: お話を伺う限り、いくつかの法的な問題があります。
まず、遺産分割が完了していない状態では、相続財産をお兄さんが一人で勝手に判断して使用することはできません。

相談者: そうなんですか?兄は「自分は長男だから当然だ」と言っているのですが

弁護士: 長男だからと言って遺産を独占する権利はありません。
また駐車場として貸し出しているということであれば、他の相続人にも利益の一部を返還すべき義務が生じる可能性があります。

相談者: やはり兄の言っていることはおかしいですよね。

弁護士: また、預貯金を勝手に使用していた疑いがあるとのことですが、これも重大な問題です。もしお父様が生きている間にお兄さんによる使い込みがあった場合、不当利得として返還を求めることも考えられます。

相談者: でも兄は家族なので、できればもめないで済ませたいと思っていました。

弁護士: そうおっしゃるのも当然だと思います。ただ、3年間も放置してしまった結果、問題がより複雑になってしまっています。
このままでは解決は困難かもしれません。

相談者: やはりそうでしょうか・・・

弁護士: はい。特にお兄さんが不動産を使用し、利益も得ている状況では、現状を変えたくないという気持ちが強くなるのも自然なことです。
このような場合、法的な手続きを通じて解決を図ることが最も確実な方法です。

相談者: 法的な手続きというと、裁判ということでしょうか?

弁護士: では具体的にお話をしますね。

この事例ではどこに問題があるでしょうか?

相続人の一人が遺産分割を先延ばしにし続けるケースは決して珍しくありません。
しかし、遺産分割をしないままにしていると、問題はどんどん深刻化していきます。

今回のご相談者が直面している複数の法的問題と、その解決策について、次回詳しく見ていきます。