この記事のポイント
- 共有している不動産の売却には共有者全員の合意が必要で、一人でも反対すると売却できない
- 感情的な対立や利害の違いにより方針が決まらないと、維持費用や税負担が重くのしかかる
- 遺産分割調停や共有物分割請求などの法的手続きの活用方法
相続した実家の売却を進めたいのに、兄弟姉妹の中に反対する人がいて話が進まない──このようなトラブルでお悩みの方は少なくありません。
今回も架空のご相談者からの法律相談をベースに、共同相続人間で売却に向けた合意が進まない場合に起きる問題と対策をご紹介します。
ぜひご自身やご家族の状況と比べてみてください。
共同で相続した実家の処分ができない!?
相談者 60代 女性
弁護士: 本日はお忙しい中、ご相談にお越しいただきありがとうございます。 相続された不動産についてお困りとのことですが、詳しい状況を教えていただけますか?
相談者: はい。昨年父が亡くなって、敷地と実家の古い一戸建てを私と兄、弟の3人で相続しました。とりあえず相続登記だけ入れておこうということで、3分の1ずつ共有にしています。
母は数年前に亡くなっているので、相続人は私たち3人だけです。
弁護士: 実家はどのような状況でしょうか?
相談者: もう誰も住んでいない空き家で、築40年以上の古い家です。 維持費もかかりますし、固定資産税なども毎年支払わなければなりません。
私としては早く売却したいと考えています。
弁護士: なるほど。ご兄弟の意見はいかがですか?
相談者: そこが問題なんです。
兄は「父の思い出の家を売るなんてとんでもない」と言って絶対に売却に反対しています。 弟は「売ってもいいけど、土地の価格は上がっているから、もう少し待った方がいい」と言っています。
弁護士: 意見が割れてしまっているのですね。その不動産の管理はどなたがされていますか?
相談者: 私が一番近くに住んでいるので、草刈りや掃除、修繕などは全て私がやっています。 固定資産税も私が立て替えて払っている状態です。
維持費は年間20万円近くかかっています。
弁護士: 大変ですね。ご兄弟から管理費用の負担はありますか?
相談者: 全くありません。兄は「勝手にやっているんだから自分で払え」と言いますし、弟は「お金がない」と言って一切負担してくれません。
だからといって何もしないと、近所から私にクレームが入ってしまします・・・
弁護士: そのような状況が続いているのですね。売却についての話し合いはされましたか?
相談者: 何度も話し合いを持ちかけているのですが、兄は感情的になって「父を大切に思っていない」などと言われて、まともな話し合いになりません。 弟も「忙しい」と言って、なかなか時間を作ってくれません。
弁護士: なるほど。
相談者: 正直言って、兄弟間で裁判沙汰になるのは避けたいと思っています。 でも、このままでは私ばかりが負担を背負って、いつまで経っても解決しません。何か良い方法はないでしょうか?
弁護士: 共有不動産の問題は、時間が経つほど複雑になる傾向があります。相続人に次の世代が加わると、さらに合意が困難になることもあります。
相談者: それは困ります。私の子どもたちにまで迷惑をかけたくありません。
弁護士: では、現在の法的な状況と、取り得る対策について詳しくご説明させていただきますね。
相談者: はい、よろしくお願いします。何とか解決したいと思っています。
この事例ではどこに問題があるでしょうか?
相続した不動産の売却で兄弟間の意見が合わず、話し合いが進まないケースは非常に多く見られます。
この相談者の方のように、管理の負担が一人に偏っているにも関わらず、処分の方針が決まらない、という状況は深刻です。
また、今回もご相談者が気づいていない法的リスクが隠れています。
どんな問題点があるか、それに対してどのような対応が必要かについて、次回詳しく見ていきます。