Column

「母が全部相続するから大丈夫」その考えが招く相続トラブル①

2025年11月06日

この記事のポイント

  • 遺産分割協議を先送りすると、二次相続で大きなトラブルになる可能性がある
  • 不動産の名義変更をしないと、将来的に権利関係が複雑化する

見えない相続の危険を見つける相続リスク診断

相談者 60代 男性

父の相続後、遺産分割は必要ないと思っていた

弁護士: 本日は相続に関するご相談ということでお越しいただき、ありがとうございます。まずはどのような状況か、お聞かせいただけますか?

相談者: 実は先月、父が亡くなりました。母はまだ健在で元気にしています。相続の手続きについて調べていたのですが、結局母が全部引き継げばいいので、特に遺産分割協議は必要ないのではないかと思っているんです。

弁護士: お父様のご逝去、お悔やみ申し上げます。
お母様がご健在ということですね。ご家族構成について、もう少し詳しく教えていただけますか?

相談者: 私には兄と弟がいます。3人兄弟です。兄は実家の近くに住んでいて、弟は海外赴任中で今はアメリカにいます。
みんな結婚していて、それぞれ子どももいます。

弁護士: なるほど。お父様の遺産について、どのようなものがあるか教えていただけますか?

相談者: 実家の土地と建物、それから銀行の預金が複数の口座にあります。あと株式も少しあったと思います。
実家は母が今も住んでいるので、そのまま母の名義にすればいいと思っています。

遺産分割協議をしない理由

弁護士: 遺産分割協議をしなくてもよいとお考えになった理由を教えていただけますか?

相談者: 配偶者である母が全部相続すればよいかなと思っています。
私たちは今の時点では何も要らないですし、母が亡くなったときに改めて相続すればいいと思っているんです。
兄弟間で揉めることもないですし、わざわざ面倒な手続きをする必要はないのではないでしょうか。

弁護士: お母様は現在おいくつですか?健康状態はいかがでしょうか?

相談者: 母は85歳です。今のところ元気で、一人暮らしも問題なくできています。ただ、最近少し物忘れが増えてきたかな、という感じはありますが、年齢的なものだと思います。
兄が近くに住んでいて、お金も一緒に管理しているので問題はないかと思います。

弁護士: お父様は遺言書を残されていましたか?

相談者: いえ、遺言書はありませんでした。
父も母も「子どもたちは仲がいいから大丈夫」と言っていました。実際、私たち兄弟は仲が良いので、相続で揉めることはないと思います。

名義変更の手続きはどうする?

弁護士: 不動産の名義変更や、預金口座の手続きについては、どのようにお考えですか?

相談者: 不動産の名義はまだ父のままです。でも母が住んでいるので、実質的には母のものということで、急いで変更しなくてもいいのではないでしょうか。預金もそのままで母が必要な分だけ使えばいいと思っています。

弁護士: 相続税の申告についてはいかがでしょうか?

相談者: 相続税ですか?うちはそんなに財産があるわけではないので、相続税はかからないと思っていました。
それに、配偶者には相続税の優遇措置があると聞いたことがあります。

弁護士: なるほど。お話を伺った限りでは、遺産分割協議を行わないことによる、いくつかの重要なリスクが見えてきました。
これらのリスクについて、詳しくご説明させていただく必要がありそうです。

この事例ではどこに問題があるでしょうか?

今回のように、お父さんお母さんのいずれかが亡くなってしまった場合、遺産分割協議をせずに配偶者がそのまま使うというケースも多くみられます。
この場合、二次相続の際にトラブルが生じてしまう可能性もあります。

今回のご相談者の場合、このまま相続が開始になった場合にはどのような問題が起きるのか、それを防ぐにはどのような対応をすればよいのか。
次回詳しく見ていきます。