前回、架空のご相談者との法律相談を見ていただきました。 相談者が気づいていない複数の法律上の問題点が隠れています。
どんな問題点があるか、どう対応すべきか見ていきましょう。
使途不明金問題の法律的な考え方
「立証責任」は請求をする側にある
弁護士:まず基本的な考え方からお伝えします。
使途不明金がある、それを返還せよと主張するお兄様の側に、「あなたが不当にお金を使った」という立証責任があります。
つまり証明する責任はお兄様側にあるのです。
相談者:そうなんですね。兄には説明を求められていますが、私の方は何も説明しなくていいんですか?
弁護士:いえ、そう単純ではありません。あなたはお父様の財産を管理する立場にありました。またお金の引き出しなども、事情を一番詳しい立場にもあります。
このような場合には、他の相続人に対する「説明責任」があると考えられています。つまり、お金の使い道については説明をする必要があると考えられています。
相談者:説明責任・・・ですか。
管理者としての説明責任
弁護士:はい。財産を管理していた相続人が、適切な説明や証拠を示せない場合には、「管理していた人が自分のために使った」と不利益に判断されてしまうこともあります。
相談者:そんな・・・私は悪いことなんてしていないのに。
弁護士:おっしゃるとおりですね。
ただ、裁判になってしまった場合にはこのような不利益が生じる可能性があります。
そのため「適切に管理していた」ことを示す方が現実的です。今後の対応のための前提知識として理解してください。
記録の重要性
弁護士:今回のケースでは、1200万円の出金について、一部でも領収書や記録が残っているのは良いことです。残っている分を整理しましょう。
また施設費用や医療費は、記録が残りやすいはずです。
相談者:はい、施設からの請求書はかなり残っています。
弁護士:それは重要です。また、お父様の症状の進行状況や、あなたがどのような介護をしてきたかも説明材料になります。介護記録や通院記録などはありますか?
相談者:通院時の診察券や薬の説明書、領収書は残っています。
弁護士:施設や病院に記録の開示を求めることも考えましょう。
まずは手元にある資料を整理をしましょう。
相談者:分かりました。心強いです。
弁護士:一つ難しい問題は、お孫さんへのお小遣いですね。
お父様が「あげたい」と言ったとのことですが、認知症の状態だとその意思能力が問題になります。
相談者:父は孫を可愛がっていましたし、昔から誕生日にはお小遣いをあげていたんです。
弁護士:その背景は重要です。ただ、お父様の状態によっては「本当にお父様の意思だったのか」という疑問も出てきます。
この点も含めて、お父様の当時の状態を調査する必要がありますね。
相談者:分かりました。
感情論ではなく法律論による解決を
弁護士:ここで大切なのは、感情的な対立を避けることです。
冷静に、証拠を示しながら説明することが重要です。
弁護士が間に入ることで、感情的な対立を法律的な問題として整理できます。
相談者:それはそうかもしれませんね。私達だけでは冷静な話し合いは到底無理です。
弁護士:また家庭裁判所での遺産分割調停を申し立てることもできます。
調停では、調停委員という第三者が間に入って、冷静に話し合いを進めてくれます。
相談者:裁判となると大げさな気もしますが。
弁護士:いえ、遺産分割調停は珍しいものではありません。むしろ、感情的になってしまった相続人同士が直接話すより、専門家を通じた方が建設的な解決につながることが多いのです。
当事務所のサポート
弁護士:当事務所では、このような使途不明金の問題について、多くの経験があります。
まず現在残っている証拠を整理し、どのような説明ができるかを検討します。そして、お兄様との交渉や、必要であれば遺産分割調停、そして不当利得返還請求訴訟の代理人として対応させていただきます。
相談者:記録が完璧に残っていなくても、何とかなるでしょうか?
弁護士:完璧な記録がなくても、諦める必要はありません。
断片的な証拠を積み重ね、状況証拠を含めて総合的に説明することで、十分に対応可能なケースもあります。
何より、感情的にならず、法律的に適切な主張をすることが大切です。
相談者:分かりました。兄と直接やり取りするのはもう限界です。先生にお願いしたいと思います。
弁護士:承知しました。まずは証拠の収集と整理から始めましょう。
あなたが一生懸命お父様のために尽くしてきたことを伝え、一緒に解決していきましょう。
まとめ
今回は、認知症の親の財産管理をしていた方が使途不明金を疑われた事例をご紹介しました。
相続トラブルは、家族の絆を壊してしまうことにもつながりかねません。特に感情的な対立も激しくなってしまい、当事者のみでは解決が困難な場合も多くあります。
しかし適切な対応をすることで解決の道は開けます。
当事務所では、相続・遺産分割について初回90分無料相談を実施しております。使途不明金の問題でお悩みの方、遺産分割でもめている方、お気軽にご相談ください。
感情的になる前に、まずは弁護士にご相談を。それが円満解決への第一歩です。