この記事のポイント
- 遺産分割協議書を作らずに先に預金を解約すると、トラブルの原因となる
- 遺産分割協議に応じなくなってしまう状態を作らないことが大切
- 遺産分割の全体像を決めた上で、個別の手続を行うことが大切
相続が発生した時、「とりあえず急ぎで必要なお金だけ引き出そう」と考え、実行される方も多いのではないでしょうか。
実はこの「とりあえず」の判断が、後になって相続トラブルの原因となってしまうことがあります。
今回も架空のご相談者からの法律相談をベースに、相続手続の順番に潜むリスクと対策をご紹介します。 ぜひご自身やご家族の状況と比べてみてください。
見えない相続の危険を見つける相続リスク診断
相談者 50代 女性
弁護士: 本日はご相談いただき、ありがとうございます。相続についてのお悩みということですが、どのような状況でしょうか?
相談者: 先週、父が急に亡くなりまして、兄と相続手続きについて話し合いをしています。その内容について、どう判断すべきか迷っています。
弁護士: それは大変でしたね。まず、ご家族の構成を教えていただけますか?
相談者: 相続人は私と兄の2人です。母は数年前に他界しています。父は兄夫婦と実家で生活をしていました。
弁護士: 分かりました。お父様の財産についてはいかがですか?
相談者: 自宅の土地建物と、銀行の預貯金が1000万円以上あります。
兄は結婚した後も実家で生活をしており、今も実家に住んでいます。
弁護士: なるほど。それでお兄さんからはどのような説明を受けられたのでしょうか?
兄から提案された手続への疑問
相談者: 葬儀費用や当面の支払いのため、「まずは預貯金を全額解約したい。」、「遺産分割協議書は後で作成すればいい。」と言われました。
弁護士: 具体的にはどのような手続きを提案されたのですか?
相談者: 銀行預金は、相続人全員の合意があれば解約ができる、と言われました。正式な遺産分割協議書は時間がかかるし、という説明でした。
弁護士: その提案についてどのように感じられましたか?
相談者: たしかに、兄の説明は分かるのですが、 本当にそれで大丈夫なのかなと。家は兄が住んでしまっていますし、預金を下ろしてしまった後で何か問題が起きないかと心配で、一度弁護士さんに相談してから決めようと思いました。
弁護士: とても賢明な判断だと思います。お兄さんとは不動産についてお話しされましたか?
相談者: 少しだけです。兄は「実家をどうするかはゆっくり考えよう」と言っています。私としては売却して分けたいと思っているのですが、まだ詳しく話し合ってはいません。
「先に預金だけ」という提案の危険性
弁護士: お話を伺っていると、いくつか気になる点があります。お兄さんの提案は手続上は可能ですが、後から大きな問題になるリスクがあります。
相談者: やはり何か問題があるのでしょうか?
弁護士: はい。「先に預金だけ引き出す」という方法には、見えない危険が潜んでいます。特に相続人の一人が実家に住んでしまっている場合、後から深刻なトラブルの原因となることがあります。
相談者: 具体的にはどのような問題が起こるのでしょうか?
この事例ではどこに問題があるでしょうか?
今回のように、まずは預金だけ下ろしてしまおう、ということで進めてしまう方もいらっしゃいます。
たしかに手続き上は可能ですが、相続全体を考えると大きなリスクが隠されています。
どんな問題点があるか、それに対してどのような対応が必要かについて、次に詳しく見ていきます。