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認知症の親を持つ50代が直面する相続問題と対策法~年代別に気を付ける相続対策②~

2025年08月18日

50代になるとご両親の認知症が現実的な問題となってきます。
「もう遺言書は書けないの?」「成年後見人って何?」といった疑問が次々と浮かんできます。

この記事のポイント

  • ご両親が認知症になった場合の相続対策の困難さ
  • 成年後見制度のメリット・デメリット
  • 認知症発症後でもできる相続対策

親が認知症と診断された方からのご相談

相談者 50代 男性 会社員

弁護士: 本日はお忙しい中、ご相談にお越しいただきありがとうございます。

相談者: 実は先月、母が認知症と診断されました。父は2年前に亡くなっており、母は一人暮らしをしていたのですが、最近物忘れがひどくなって、近所の方からも心配されるようになりました。

弁護士: お母様の認知症の程度はいかがですか?

相談者: 医師からは「軽度から中等度」と言われています。日によって調子の良い時と悪い時があって、普通に会話ができる時もあれば、私のことが分からなくなる時もあります。銀行の手続きなどは、もう一人では難しい状態です。

弁護士: ご家族構成を教えていただけますか?

相談者: 私と妹の2人兄妹です。妹は結婚して隣県に住んでいます。
母の財産は自宅と預貯金が主で、遺言書は書いていません。実は父が亡くなった時に、「今度は母に遺言書を書いてもらおう」と話していたのですが、結局そのままになってしまって…

弁護士: なるほど。

認知症発症後の遺言書作成の困難さ

相談者: 今からでも母に遺言書を書いてもらうことはできるのでしょうか?

弁護士: 遺言書の作成には「遺言能力」が必要とされています。
これは遺言の内容を理解し、その結果を判断できる能力と考えてもらえばと分かりやすいですね。
そのため認知症の程度によっては、遺言書の作成が困難になる場合があります。

相談者: 調子の良い時なら、しっかりしているように見えるのですが…

弁護士: 認知症をり患したからといって、必ず遺言能力が失われるわけではありません。
ただ後に遺言の有効性を争われるリスクも高くなります。遺言書を作成する場合は、医師の診断書や公正証書遺言にするなどの慎重な対応が必要です。

成年後見制度の必要性と負担

相談者: また銀行からも「今後、成年後見人を立てることも検討してください」と言われました。これは必ず必要なのでしょうか?

弁護士: お母様の認知症が進んでしまい、財産の管理能力がなくなった場合に、お母様の財産を守るためにも成年後見制度の利用も検討した方がいいですね。

相談者: 成年後見人になると、どのようなことができるのですか?

弁護士: 成年後見人は、お母様の財産管理や身上監護を行う権限を持ちます。具体的には、預貯金の管理、不動産の売却、介護サービスの契約などができます。

相談者: デメリットもあるのでしょうか?

弁護士: まず、一度後見人が選任されると、お母様の能力が回復するか、亡くなるまで続きます。
また弁護士や司法書士が後見人に選ばれた場合には、年間数十万円の報酬が発生することがあります。これは家庭裁判所がお母さんの収支や財産の状況などから定めます。

相談者: 負担が生じますね。

相続手続への影響と対策

相談者:実は父の遺産分割も終わっていないんです。父名義の不動産もまだ残っています。

弁護士: この場合、お母様の認知症の程度によっては、遺産分割協議ができません。

相談者: 遺産分割協議ができないとは、どういうことでしょうか?

弁護士: 遺産分割協議は、相続人全員の合意で遺産の分け方を決める手続きです。しかし、認知症のため判断能力が不十分な相続人がいる場合は、成年後見人を選任する必要があります。後見人は本人の利益を最優先に考えるため、法定相続分を下回る内容には同意できません。

相談者: つまり、家族の希望と後見人の判断が異なることもあるということでしょうか。

弁護士: その通りです。

今からできる対策について

相談者: 何か対策はありますか?

弁護士: 認知症の程度によっては、まだ対策できることがあります。
まずかかりつけ医に正確な診断をしてもらいましょう。
お母さんに遺言能力や判断能力が残っていると診断されたら、公正証書遺言の作成を検討することや、お父さんの遺産分割協議を進めることも可能です。

相談者:わかりました。 現在、母の通帳を預かって生活費や医療費を管理しているのですが、問題はないでしょうか?

弁護士: お母様の同意を得て行っているなら、問題ありません。
ただ将来の相続の際に「使い込み」を疑われないよう、きちんと記録を残しておくことが重要です。

相談者: 具体的にはどのような記録を残せばよいでしょうか?

弁護士: 支出の内容と金額を記録し、領収書を保管しておいてください。特に高額な支出については、お母様の同意を得ていることが分かる記録を残しておくと安心です。また、お母様名義の口座から引き出したお金は、必ずお母様のために使用し、家族の生活費と混同しないよう注意が必要です。

相談者: 妹との関係も心配です。今は協力的ですが、相続となると変わることもありますよね?

弁護士: 残念ながら、そのようなケースは珍しくありません。
仲が良くても相続の際にトラブルになることがあります。定期的に妹さんとお母様の状況を共有し、財産管理についても透明性を保つことが大切です。

相談者: 今日お話を聞いて、思っていたより複雑で深刻な問題だということが分かりました。早めに相談して良かったです。

弁護士: 認知症の親御さんを持つ相続は、確かに複雑な問題が多いです。
しかし、適切な対策を早めに講じることで、トラブルを最小限に抑えることができます。お母様の状態を見ながら、最適な方法を一緒に考えていきましょう。

まとめ

親が認知症になると、相続対策の選択肢は大幅に制限されます。
しかし症状の程度によってはまだできることがありますので、早めの対応が重要です。

当事務所の「相続リスク診断」では、認知症の親を持つご家庭の複雑な問題を分析し、現在の状況でできる最適な対策をご提案します。一人で悩まず、まずは専門家にご相談ください。

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